種苗法改正について一農家として思う事。
今回柴崎コウさんが種苗法に関してのツイートをしたことが話題になり、この種苗法について知る人も増えたかと思いますが、今回は、仕事で種苗を扱う身としての意見を書かせていただきたいと思います。
【大臣の会見を見て】
まず5月19日の大臣の会見や、農水省のWEBサイトを見て、法案の中身について確認しました。まず一点、大臣が勘違いしているのは、自家増殖を許してきたから登録品種が海外へ流出したと思っている点です。
大臣の会見や、農水省による一時ソースを貼っておきますので、興味のあるかたは確認してみてください
【法改正する意義】
①近年、諸外国で我が国の登録品種が海外に流出しており、これは、我が国農産物の輸出に影響する
②登録品種が販売された後に海外に持ち出されることは、現⾏法上は違法ではない
③登録品種が⾃家増殖された後に海外に持ち出されることは違法であるが、増殖の実態が把握できない ため抑⽌できない。
【農水省による法改正の効果とは】
1 登録品種について
育成者権者が栽培地域の制限の条件を出願時に付した場合に、条件に反して①海外への持ち出し、②国内指定地域外での栽培を⾏った場合、育成者権侵害となる。
2 登録品種について
①育成者権者の許諾の下で増殖を⾏うため、増殖を⾏う者や場所の把握が可能となる。
②その結果、⽬の届かない増殖がなくなり、違法増殖からの海外流出への対応が可能となる。
ようするに外国に優良品種の流出をなんとか食い止めよう!!という法案です。
そしてそれを実現する為には、今まで農家が自分の為に作る自家増殖については、何の許諾もいらずにできていたが、これをやらせていると、どこでどのくらい苗木が増えて、どこから流出したのか把握できないから、登録品種に限って許諾制にして増殖している状況を把握できるようにしようという内容です。
【自家増殖とは?】
自家増殖が分からない人も多いと思うので簡単に説明すると、例えばシャインマスカットの枝を1メートル切ると、そこには、およそ15センチ間隔で芽がついているので、1メートルでは、およそ7個の芽がついてます。
それを、一芽一芽に切り分けて、挿し木といって、土にさして水をあげれば芽がでてきてシャインマスカットの苗が7本できあがります。
このように、果物等は簡単に増殖させることができてしまいます。専業農家の場合は、土壌に合わせて台木に接ぎ木します。詳しく説明すると長くなるので、興味のあるかたは調べてみてください。
【実際にやってみて】
現在長野県では、赤色の皮まで食べられる最新品種でクイーンルージュというぶどうが県の試験場によって生み出されました。
この苗木は、正にこの種苗法の改正の原因にもなったシャインマスカットの失敗を繰り返さないためにも、農協から購入しかできず、さらに、購入する時には、自家増殖を勝手にしないと誓約書を書かされます。
種苗法が改正されることによりこれに法的根拠を与えることになるわけです。
種苗法違反は見つかるのか?
しかし、この種苗法を守らなかったとして見つかる事はあるのか?という疑問があると思います。正直なところ、誰かがそこら中の畑を見回りして苗木を勝手に増やしてないかパトロールするのでしょうか??
例えパトロールをやったところで他の品種と見分けがつくのでしょうか??
果物の苗でよくトラブルになるのが、購入した品種が例えば赤いリンゴがなるはずだったのに、何年後かにやっと実がついてみたら、黄色いりんごが実った。
という話をそこら中でよく聞きます。
これはたとえ話ですが、同じりんごであれば、多少の違いはあれ、実がなってみないと正直どんな品種なのか特定するのはそうとう難しいのです。
ではどうやって見分けるのか?
私も大体の木をみれば品種が分かりますが、それは何故分かるかというと、この地域で導入されている品種であり、花が咲く時期、花の色、枝の出方、栽培されている標高、実の形等総合的に判断してこの品種は○○じゃないかな?と当てる事ができます。
しかし苗木を育成する時に成長の妨げになる花なんて付けるわけがないし、もちろん実もつけるはずがありません。
これらのことから、違法に増殖している苗を見つける為には、葉っぱと枝のみで品種を特定しなければいけないため。。。
誰ができるのだろうか。。。
答え=できません
【海外への優良品種の流出は防げるのか?】
また種苗法を改正して、自家増殖を許諾制にしたところで、海外へ持ち出す事を念頭に行動している人には、枝が一本あれば本国で増殖は容易にできるため、日本国内で増殖してそれを海外に持ち出す必要がありません。
以上のことから海外への優良品種の流出はどう考えても防げないものです。
それを念頭において法案を考えないとおかしな中身となってしまいます。
だから農家ほどこんな法律意味がなく、ただ自分たちの手間が増えるだけじゃん!と思っている人が多いです。
シャインマスカットに関してはここまで全世界で流行ると農研機構も当初思わず、海外で品種登録を怠ったその結果が今であり、責任を他人のせいにするのは間違っていると思います。品種登録を行っていれば、中国や韓国の好き勝手にさせないことができました。
あくまでもシャインマスカットが海外で作られているのは、日本が品種登録を怠ったことが原因であり、自家増殖の苗木が原因ではありません。
感謝
*シャインマスカットという作りやすくて美味しい品種を生み出してくれた農研機構の方々には死ぬほど感謝しています。
こんな法律にしてみたら?
本当に目的が海外への有望品種の流出の阻止ならこんな法案はいかがだろうか?
①日本国内で種苗の品種登録がされたものについては、専門の部署を作り、国が責任をもって海外での品種登録をすませる。
②海外で条約違反の事例が認められた場合には、国が責任を持って対処する。
種子法が廃止されたことをうけ長野県では独自に条例を制定したりしているけど、それらの全体の流れを見ていると、今回の種苗法に対して反対している人たちの気持ちも分からなくもないんだよな~と思います。
実は個人の農家も育種します!
ちなみに育種をしているのは、主に国と県の機関が行っていますが、個人の農家でももちろんやっています。長野県のりんご三兄弟の秋映(黒みたいな濃い色のりんご)も実は個人の農家さんが生み出したものです!
新しい品種を生み出すには長い年月がかかるため、その努力が報われるようにしてあげないと新しい有望な品種が日本からなくなりますね。